1. はじめに
企業のサステナビリティ経営が本格化する中、ESG(環境・社会・ガバナンス)に関する情報の収集・管理・分析の高度化が求められています。こうした背景のもと、野村総合研究所(NRI)は2024年7月、ESGデータ可視化・活用を支援する新たなソリューション「NRI ESGデータ提供サービス」を開始しました。
本記事では、NRIのこれまでのESGへの取り組みに触れた上で、同サービスの特徴や導入意義について詳しく解説します。
1.1 NRIのESG経営──社内実践としての先進事例
野村総合研究所(NRI)は、シンクタンク機能とITソリューションを併せ持つ企業として、経済・社会課題の解決に多角的に関わってきました。ESG経営への取り組みも早くから本格化しており、2014年には本田健司氏がサステナビリティ部門の責任者に就任。以降、国連グローバル・コンパクトやRE100への加盟、TCFD対応の推進、CDPやDJSIへの継続的な選定など、社内体制の整備と外部評価の獲得を両立させてきました。
注目すべきは、サステナビリティ部門の立ち上げ過程や開示戦略の実務知見が『イチからつくるサステナビリティ部門』として書籍化されている点です。これは多くの事業会社にとって参考となる先進事例といえるでしょう。
こうした背景の上に立ち、NRIはESGを「自社の課題」から「他社を支援するソリューション」へと展開しはじめています。その象徴が、2024年7月に提供を開始した「NRI ESGデータ提供サービス」です。
2. ESGデータの可視化・収集支援──「NRI ESGデータ提供サービス」とは
2.1 多様化するESG開示の課題
現在、多くの企業がESG関連の取り組みを統合報告書やサステナビリティレポート、IRサイト等で発信していますが、そのフォーマットや開示基準は企業ごとに大きく異なります。情報の所在も分散しており、外部関係者──特に投資家、事業会社、監査法人、コンサルティングファームなど──にとっては、必要な非財務情報に迅速かつ網羅的にアクセスすることが困難になっています。こうした課題に応える形で開発されたのが、「NRI ESGデータ提供サービス」です。
2.1.1 サービスの概要と想定利用者
NRI ESGデータ提供サービスは、NRIが有する人工知能(AI)ベースの情報処理技術と、日本経済新聞社が展開する「日経バリューサーチ」を組み合わせたESGデータ活用基盤です。企業のESG情報の収集・比較・分析・レポート化までを一貫して支援します。
対象ユーザーには以下のような組織が想定されています:
- アセットマネジメント会社、信託銀行、保険会社などの機関投資家
- 統合報告書や開示文書を作成する事業会社
- 監査法人・コンサルティングファームなどの支援事業者

NRI ESGデータ提供サービス より
2.1.2 主な特徴と機能
2.1.3 ESG関連レポートの可視化・分析機能
企業ごとに異なるフリーフォーマットのESGレポート(統合報告書、CSRレポートなど)を、NRIが独自に定義した「約180のESG観点」に基づいて構造化。ユーザーは、直感的なUIを用いて企業間や時系列での比較ができるほか、カスタマイズ可能な検索テンプレートやキーワード抽出機能を活用し、特定トピックの深掘りも可能です。
2.1.4 ESG基礎情報・企業ニュース・不祥事情報の統合参照
日経ESGデータと連携し、環境・社会・ガバナンスに関する数値データ、テキスト情報、企業ニュース、不祥事記録までを横断的に取得可能です。特に「日経企業リスクウオッチ」による不祥事情報は、ESGリスクの早期検知・分析に有効です。
2.1.5 高度な業界・企業分析とレポート出力
ESG以外の領域(人事・財務・市場動向など)も含めた企業・業界分析が可能であり、日経バリューサーチを活用したレポート出力機能も搭載。数クリックで多面的な分析レポートを生成できるため、投資判断や戦略立案のスピードと質を高めます。
3. NRI ESGデータ提供サービスは何が新しいのか──類似ソリューションとの違い
ESGデータを収集・分析するツールはすでに複数存在します。たとえば、SPEEDAやMSCI、Bloombergなどが提供するESGプラットフォームでは、企業のESGスコアや評価、リスク要因などを定量的に示す仕組みが整っています。これらの多くは、国際的な基準に則った評価体系を採用し、投資家にとっての「横比較」がしやすい設計がなされています。
一方で、NRI ESGデータ提供サービスが着目したのは、「企業が実際に発信している文脈」をどう読み解くかという視点です。日本企業の統合報告書やサステナビリティレポートは、定型的な定量データよりも、経営方針や社会課題への対応を詳細に記述する傾向があり、内容の解釈には一定の専門性と時間を要します。NRIは独自のAI技術を用いて、こうした非定型文書を約180のESG観点で自動的に分類・構造化する仕組みを構築しており、特に日本企業における「意味のある可視化」を可能にしました。これにより、従来のスコア型評価と異なり、企業のメッセージを機械可読化して横断比較できるという特徴が生まれています。
さらに、企業不祥事に関するデータや国内2万社以上のニュースも統合的に取得できるため、「リスク情報への即時アクセス」や「レピュテーション評価の補完」といった使い方にも対応できます。AIによる文脈構造化とリスクデータ・ニュースデータの統合を組み合わせることで、開示内容だけでなく、文脈・背景・周辺情報までを含めた立体的なESG分析が可能になっている点が、他のソリューションとの差別化要因です。
4. 導入がもたらす価値と今後の展望
ESG情報の活用は、もはや上場企業や金融機関だけの課題ではなく、サプライチェーン全体に及ぶ「経営インフラ」となりつつあります。NRI ESGデータ提供サービスは、これまで煩雑で属人的だったESG情報の処理を「効率化・可視化・構造化」し、社内外の意思決定における非財務情報の有効活用を後押しします。
特に、以下のような用途において高い導入効果が見込まれます:
- 統合報告書作成におけるベンチマーク企業の分析
- 投資先企業のESGリスクモニタリング
- サステナビリティ戦略立案における外部事例の探索
- ESGスコア向上に向けた開示項目の改善検討
たとえば、ある上場企業のIR部門が統合報告書を作成する際、同業他社がTCFDにどのように対応しているかを調べる必要があるとします。NRI ESGデータ提供サービスでは、該当企業の報告書をESG観点別に抽出し、「気候変動」「シナリオ分析」「Scope1〜3」といったキーワードに関連する開示内容を素早く検索可能です。これにより、時間をかけずに他社の表現・対応方針を参照でき、自社開示の質的向上につなげることができます。
また、運用会社がポートフォリオ企業のリスク管理状況を定期的にチェックする場合も有効です。不祥事や新たなサステナ目標の発表があった際、関連する開示内容と時系列の変化を一元的に把握できるため、企業との対話(エンゲージメント)の根拠として活用しやすくなります。
このように、NRI ESGデータ提供サービスは「調査の効率化」だけでなく、「戦略立案・開示改善・エンゲージメント」までを視野に入れた実務支援ツールとして機能します。
今後、CSRDやISSB基準など国際的な開示規制の適用が日本にも本格的に広がる中、企業にとってESGデータの整備はますます重要な経営課題となります。NRIは自社のESG実践知を基盤に、このような社会的ニーズに応える支援を続けていくと見られます。
5. まとめ
野村総合研究所(NRI)は、自社のESG経営を着実に推進してきた実績をもとに、他社のサステナビリティ対応を支援するソリューション「NRI ESGデータ提供サービス」を立ち上げました。企業間で異なる非財務情報を統合・可視化するこのサービスは、開示対応やエンゲージメントに課題を抱える企業・投資家にとって、今後のスタンダードになり得るものです。
サステナビリティ開示の高度化を目指す企業にとって、本サービスがどのように活用できるか──いま一度、自社の情報管理体制を見直す契機となるかもしれません。


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