1. サステナビリティ推進部とは何をする部署か
サステナビリティ推進部は、企業のESG(環境・社会・ガバナンス)対応を担う中核部署であり、経営に直結する横断的な役割を持ちます。たとえば、脱炭素の目標設計や人的資本の開示対応、サステナビリティ方針の策定、社内浸透施策の企画実行など、業務の幅は非常に広く、全社を巻き込む動きが求められます。
企業によっては「サステナビリティ推進室」「ESG推進室」「CSV推進部」など呼び方は異なりますが、いずれも“持続可能な企業活動の実現”を推進する部門であることに違いはありません。
また、こうした部署は専任体制が整っているケースばかりではなく、異動や兼任で構成されていることも多くあります。実務を進めながら役割分担を模索することも多く、明確なチーム体制を構築するまでに時間がかかるのが実情です。
その分、業務の幅も広く、前例のない取り組みに関わるチャンスが豊富な領域でもあります。それでは、こうしたサステナビリティ推進の役割を担うには、どのような人が向いているのでしょうか?
2. サステナビリティ推進部に向いている人の特徴とは
2.1 中長期の視点を持ち、推進力がある人
サステナビリティの取り組みは、短期的に成果が出るものではなく、数年単位の視点で物事を捉える力が必要です。たとえば「2050年カーボンニュートラル」や「2030年までのGHG排出削減目標」といった中長期の目標に対して、段階的に施策を進めていく力が求められます。
そのため、目先の成果にとらわれすぎず、地道に推進できる粘り強さがある人は、非常に相性がよい分野と言えるでしょう。
2.2 部門を越えて調整・巻き込みができる人
社内の各部門と連携しながら全体をまとめる役割であるため、高いコミュニケーション能力やファシリテーション力が求められます。部署ごとに優先事項が異なるなかで、共通言語を見つけ、施策を前に進める力が重要です。ESGデータの収集には、人事・経理・法務など多くの関係者が登場します。相手の立場を理解しながら巻き込める人が重宝されます。
実際、国際的なESG評価機関でも、部門横断の連携体制や情報の整備状況が評価項目に含まれており、サステナビリティ推進部には「全社的な調整役」としての機能が求められています。
例えば、サプライチェーン調達の現場で広く活用されている国際的なESG評価機関であるEcoVadisでは、ポリシー(方針)、アクション(実行内容)、リザルト(成果)の3つの要素(Management Indicators)に基づいて企業の取り組みを評価しており、単なる計画だけでなく、実行力と成果まで含めた総合的な管理サイクルが重視されています。
2.3 社会課題に関心を持ち、自分ごととして考えられる人
「環境問題に関心がある」「サステナブルな社会に貢献したい」という気持ちは、サステナビリティ推進部で働く上での大きなモチベーションの源になります。
たとえ専門知識がなくても、社会課題に対する関心や姿勢があれば、業務に必要な知識はあとから身につけることができます。ただし、ESGやサステナビリティに関する制度やトピックは日々更新されるため、最新の情報にアンテナを張り、学び続けようとする姿勢はこの分野で働くうえで欠かせません。
3. サステナビリティ推進部でよくある仕事内容
サステナビリティ推進部の業務は多岐にわたります。以下は代表的な内容です:
3.1 経営方針やマテリアリティ(重要課題)の見直しと定義
社会や市場の変化をふまえて、企業として優先的に取り組むESG課題(マテリアリティ)を整理・更新する業務です。経営陣との対話を通じて、事業との整合性を取りながら方針を言語化していきます。
3.2 施策の立案・実行に向けた他部署との調整
サステナビリティの取り組みは、実際の現場を担う各部署との連携が欠かせません。目標のすり合わせや実行フェーズの役割分担、スケジュール管理など、推進部門がハブとなって調整を行います。
3.3 社内研修や啓発イベントなどの企画・実施
社員への理解促進や意識醸成のため、全社研修や部門別勉強会、社内報での特集企画などを担当します。SDGs月間などの機会を活かし、全社的な巻き込みを仕掛ける役割です。
3.4 非財務情報(GHG・人的資本・サプライチェーンなど)の収集と管理
開示や評価対応に必要なデータを、人事・経理・法務・生産部門などから収集し、精度を保ちながら整理・管理します。温室効果ガス排出量、従業員構成、サプライヤー調査結果など、扱う情報は多岐にわたります。
このような情報管理体制は、MSCIやCDPといったESG評価機関でも重視されています。MSCIでは「人的資本」「GHG排出」「サプライチェーンの倫理」など33の主要課題(Key Issues)に基づいて評価が行われ、定量的なデータ管理と開示能力が求められます。
3.5 サステナビリティレポートや統合報告書の作成
企業の取り組みを社外に伝えるため、報告書の企画から構成設計、原稿作成、社内確認、デザインディレクションなど、制作全体に関わります。最近ではWeb版レポートや動画コンテンツに携わるケースも増えています。
3.6 ESG評価機関や投資家、NGOなど外部との対話対応
ESG評価や質問票の対応、投資家向け説明資料の作成、ステークホルダーからの問い合わせ対応など、社外との窓口としての機能も担います。信頼構築のためのコミュニケーション設計も重要な要素です。
日常業務は「書類作成」や「情報収集」といった地道な仕事も多く、丁寧で堅実な対応ができることも求められます。
4. 活かせるキャリア・職種経験とは?
サステナビリティ推進部で活躍している人には、さまざまなバックグラウンドを持つ人がいます。共通するのは、「全社的な視点」「社内外との連携経験」「社会課題への関心」のいずれかを備えていることです。
たとえば、以下のような職種経験が、実務との親和性が高いとされる傾向にあります。ただし、これらの職種経験だけで十分とは限らず、ESGやサステナビリティに関する知識や関心を、日頃から積極的に深めてきたかどうかが、より重要な要素となります。
4.1 経営企画・IR・CSR・人事など企画・管理部門出身者
経営企画やIR、CSR、人事などの部門は、企業の全体戦略や非財務情報に関わる業務を担っており、サステナビリティ推進との親和性が高いポジションです。全社視点での計画立案や定量管理、社内ステークホルダーとの調整といった経験は、そのまま推進部門での実務に活かしやすい特性を持ちます。
特に、以下のような経験があると、よりスムーズに業務に適応しやすくなります。
- 経営企画部門で、気候変動リスクや人的資本を含む非財務項目のKPI設計・中期経営計画への組み込みを行った
- IRとして、統合報告書の開示やESG評価機関(MSCI・Sustainalytics等)との対話を担当した
- CSR部門で、社会貢献活動の企画だけでなく、マテリアリティの見直しや報告書制作に関与した
- 人事部門で、人的資本開示に関連したデータ整備、DE&I施策の設計や全社展開を主導した
こうした経験を持つ人材は、方針立案からデータ管理、社内合意形成までの一連のプロセスを実務レベルで理解していることから、実務メンバーとしてもリーダーとしても重宝されやすい傾向にあります。
4.2 営業・マーケティング・広報など対話・調整業務の経験者
営業やマーケティング、広報といった職種は、社内外との調整力や関係構築力を培いやすい点で、サステナビリティ推進の業務に活かせる素地があります。特に、多様な関係者との対話や合意形成を求められる業務経験は、全社を巻き込むサステナビリティ推進の場面でも役立ちます。
ただし、そうした職種経験に加えて、サステナビリティに関連する業務への関与や関心の深さがあると、実務面での適応力や説得力が一層高まります。
たとえば、以下のような経験があると、実際の業務との接点が明確になり、評価されやすくなります。
- 営業活動の中で、脱炭素や再エネ導入、サステナブル素材などをテーマにした商材の提案経験がある
マーケティングにおいて、SDGs文脈でのキャンペーン企画やブランド戦略の立案に携わった - 広報として、統合報告書やサステナビリティレポートの制作、ESG関連の社外向け発信に関与した
- 社内でのSDGs推進プロジェクトに任意参加し、他部署と連携しながら実務を進めた経験がある
こうした経験があることで、単なる調整スキルにとどまらず、ESGやサステナビリティに関する実務理解と問題意識を備えていると評価されやすくなります。業務の延長線上でサステナビリティを「自分ごと」として取り組んできた履歴は、転職や異動の場面で説得力を持つ要素となります。
4.3 環境・人権・地域活性など社会課題に関わる実務経験者
社会課題の現場に直接関わってきた人材は、サステナビリティの本質に対する深い理解と、実行力を兼ね備えているケースが多く見られます。環境保全や人権、多文化共生、地域創生などの実務を通じて得た知見は、企業のESG対応においても重要な視点を提供してくれます。
以下のような具体的な経験がある場合、サステナビリティ推進部門でも即戦力として期待されることがあります。
- 自治体で、気候変動適応計画やゼロカーボン施策の企画・実施に携わった
- NGO/NPOで、フェアトレード・教育・ジェンダー平等・人権支援といった領域のプロジェクトを主導した
- 環境コンサルティング会社で、GHG排出量算定、LCA分析、第三者認証支援などの実務に従事した
- 地域金融機関や商工団体の立場で、地域資源活用や中小企業支援を通じてサステナブルなまちづくりに関与した
このようなキャリアを持つ方は、現場で培った専門性を社内に持ち込み、事業活動と社会課題をつなぐ“翻訳者”のような存在として期待されます。企業内に新しい視点を導入する役割としても非常に重要です。
また、明確な異動や公募がなくても、社内でサステナビリティに関心を持ち、少しずつ動いていた人が異動や兼任を経て正式に配属されるケースも見られます。必ずしも「専門家」である必要はありませんが、自ら学び、実務に関わる姿勢が、キャリアの転機につながる分野であることは間違いありません。
5. まとめ
サステナビリティ推進部に求められるのは、制度の知識よりも、“変化に向き合う姿勢”と“人を巻き込む力”です。
未経験でも、関心と意欲があればチャレンジの扉は開かれています。
企業の未来や社会の変化に関わるこの仕事は、やりがいも影響力も大きい領域です。自身の関心や得意分野と照らし合わせながら、新たなキャリアの一歩としてぜひ検討してみてください。
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