サステナビリティ人材の育成とは?企業内での設計・実践・評価の視点を解説

サステナビリティ人材の育成とは?企業内での設計・実践・評価の視点を解説

1. はじめに:なぜ「育成」が問われているのか

サステナビリティへの取り組みは、今や企業の競争力や持続可能な経営の根幹を支える要素となっています。その中で「サステナビリティ人材」の必要性が叫ばれていますが、多くの企業にとっては即戦力の採用だけでは十分に対応しきれないのが現状です。専門知識に加え、組織内での理解浸透、ステークホルダーとの連携など、多様な力が求められるため、中長期的な視点からの人材育成が不可欠となっています。

経済産業省が公表した「伊藤レポート 3.0(SX版伊藤レポート)」では、「サステナビリティへの対応が長期経営の根幹をなす要素となりつつある」とされ、「非連続的な変革を加速することが重要である」と明記されています。これらの記述からは、企業にとってサステナビリティ対応が経営上の重要課題とみなされつつある傾向がうかがえます。人的資本の育成も、そうした変化に対応するための手段の一つとして検討の対象となり得ます。

参照:経済産業省「伊藤レポート 3.0(SX版伊藤レポート)」

2. サステナビリティ人材の育成を考える前に

2.1 サステナビリティ人材とはどのような人材か

「サステナビリティ人材」とは、企業や組織が持続可能な社会の実現に向けて、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する課題に対応し、中長期的な価値創出に貢献する人材を指します。脱炭素戦略の企画、サプライチェーン上の人権対応、統合報告書の開示、人材開発とD&I推進など、企業経営の多様な場面でその役割が求められています。

このような実務・経営に根差した「サステナビリティ人材」という枠組みに対し、国際的な文脈では「グリーンジョブ」という別の概念も存在します。これは2008年にILOやUNEPによって定義されたもので、「環境を保全・再生しながら、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の要件を満たす職業」とされています。

両者は共通して「持続可能性に関わる」という観点を含んでいますが、定義の出発点や適用領域は異なります。グリーンジョブは主に雇用政策や産業構造転換の文脈で用いられるのに対し、サステナビリティ人材は企業内部の人材戦略や経営人材育成の文脈で語られる傾向にあります。

この記事では、企業内における組織変革・価値創出の担い手としてのサステナビリティ人材に主軸を置いて解説を進めます。

参照:ILO, UNEP, IOE, ITUC “Green Jobs: Towards Decent Work in a Sustainable, Low-Carbon World”

2.2 採用との違いと育成の目的

即戦力としての外部採用は、短期的な課題解決や知見の獲得に有効です。たとえば、企業がTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づいた情報開示や、人権デューデリジェンス(自社の事業活動による人権への悪影響を特定・防止・軽減する責任ある取り組み)を求められる場面では、外部の経験者を迎えることで、対応の初動を加速できるでしょう。

一方で、サステナビリティへの取り組みは短期的な成果を追うものではなく、企業の中長期的なビジョンや文化と深く関わるものです。そのため、社内で人材を育成することで、組織の価値観や方針への理解が深まり、自律的に持続可能性を推進できる人材が形成されやすくなります。

実際に、内部からの登用や育成を進めることで、オンボーディング期間が短く、早期に業務成果を発揮しやすいとする調査結果があります。Forbesでは、「新規採用と比較して、社内人材は制度・文化の理解が深く、生産性への貢献が速い」と報告されています。

また、IZA World of Laborの研究では、「社内昇進は働きがいを高め、結果として離職率の低下につながる」とされており、長期的な人材維持とモチベーションの向上にも一定の効果があるとされています。

さらに、経済産業省による人材版伊藤レポート2.0では、経営戦略と人材戦略を連動させることが企業変革に不可欠であり、社内育成はその連携を担うための具体的施策として位置づけられています。

厚生労働省の報告では、理念や文化への共感を重視した人材育成が、採用ブランドや社内定着率の向上に寄与することが指摘されています。サステナビリティ人材のように、環境・社会課題に対する企業の姿勢に共感し、自らの業務にその意義を見出せる人材を育てることは、単なるスキル獲得を超え、組織の持続可能性を内側から支える力となり得ます。

参照:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書(人材版伊藤レポート2.0)」厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析」

3. 育成のための企業内アプローチ

3.1 実務と連動した学びの設計(OJT・プロジェクト制)

サステナビリティ人材の育成においては、実際の業務に直結した学びの設計が重要です。なかでも、部門横断型のプロジェクトや専用研修プログラムを通じたOJTは、現場対応力と主体的思考を鍛える有効手段となります。

たとえば、富士通では社員向けに「Environmental e‑Learning」や内部監査員を対象とした環境研修を実施しており、全社員の環境意識と基礎知識に関する理解を体系的に支援しています。

また、住友化学は2019年に、グループ全社員を対象とした社員参加型サステナビリティ取組 「For a Sustainable Future – JIRI RITA –」を実施しました。10月から12月にかけ、 マテリアリティをテーマとするオンラインクイズの回答や、「業務を通じて何ができるか」 を投稿する形式で進行し、延べ22,796件のクイズ参加と12,067件の投稿が集まりまし た†。このプロジェクトは、実務に関連する気付きの共有や行動を促す参加型ラーニングの場として設計されており、サステナビリティ人材の育成に向けた実践的な学びの機会を提供しています。

これらのケースは、知識補充型の研修にとどまらず、実務を通じた経験学習によって人材が主体的に環境視点を体得する設計になっており、サステナビリティ人材育成における効果的アプローチといえます。

参照:
富士通のサステナビリティ経営
住友化学「サステナビリティの推進に向けた社員参加型プロジェクト「For a Sustainable Future -JIRI RITA-」を実施」
住友化学「2024年度版の統合報告書『住友化学レポート』、『インベスターズハンドブック』、『サステナビリティレポート』を同時発行」

3.2 社外リソースを活用した学びの広がり

サステナビリティ人材の育成には、実際の業務を通じて学ぶOJT(On-the-Job Training)だけでなく、外部の研修や講座など、職場を離れて体系的に学ぶ機会(Off-the-Job Training)を組み合わせることが効果的です。具体的には以下のような取り組みが行われています。

  • 環境・ESGに関する民間資格の取得支援
    企業によっては、社員がESG経営や環境マネジメントの理解を深めるために、外部の認定資格を取得する費用を補助する制度を設けています。たとえば、「サステナビリティオフィサー検定(一般社団法人日本サステナビリティ推進機構)」などは、ESG基本概念から国際的な開示基準までを体系的に学べる内容となっており、受講費用の一部補助や合格奨励金の制度を導入する企業もあります。
  • 社会課題に関するeラーニングの導入
    全社員を対象に、SDGsの基本理解やビジネスと人権、サーキュラーエコノミー(循環型経済)といったテーマを扱ったeラーニング教材を配信する企業が増えています。たとえば、経産省やJICAの公的資料をベースにした社内用動画教材を開発したり、外部ベンダーのESG教育プログラムをカスタマイズして導入するケースがあります。いつでも・どこでも受講可能な柔軟性があり、基礎知識の底上げに効果的です。
  • NPOや大学との連携によるワークショップ形式の学び
    たとえば、NPOと連携して「地域の環境課題をテーマとした解決提案型ワークショップ」に社員を派遣したり、大学院のリカレント教育講座に企業枠で参加するプログラムもあります。東京大学や早稲田大学では、社会人向けの「脱炭素経営」や「サステナブルファイナンス」講座が開講されており、グループディスカッションや課題発表を通じて、実務に近い形での応用力を養う設計になっています。

  • 企業間の人材交流・越境学習

    サステナビリティの課題は、業界や企業の枠を超えて共有される性質を持っています。そのため、他社との協働プロジェクトや人材交流の機会を通じて、異なる視点やアプローチを学ぶことは、非常に有効な育成の手段とされています。

    たとえば、ある製造業では、異業種連携によるサーキュラーエコノミー推進プロジェクトに社員を派遣し、他社の担当者や自治体・NPOとともに課題解決に取り組む中で、実践力と俯瞰的な視野を身につける場が設けられています。

    また、業界団体が主催する「脱炭素実践ワーキング」などに継続的に参加することで、日常業務では得られない最新の政策動向や技術トレンドに触れることも可能です。

    こうした社外の学びは、社内育成だけでは補いきれない知識や経験の幅を広げるとともに、他者との対話を通じた視座の転換にもつながります。


4. 成果をどう測るか:育成の可視化とフィードバック

4.1 人材育成のKPI設定

サステナビリティ人材の育成は、成果が定量化しにくい領域でもありますが、進捗や効果を継続的に把握するためには、一定の評価指標(KPI)を設けることが重要です。

経済産業省の「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書(いわゆる伊藤レポート2.0)」では、育成の成果を可視化するための参考指標として、以下のようなKPIが例示されています:

  • 育成プログラムの受講率や修了率(例:ESG研修の受講率)
  • サステナビリティやコンプライアンスに関する資格取得者数
  • スキルマップや自己評価による行動変容の自己申告データ
  • 社内フィードバック制度を通じた実務上の改善提案件数

これらのKPIは、育成プログラムの「導入そのもの」を評価するだけでなく、個人の変化や実務への定着度を多面的に把握するために活用されます。また、KPIの設計は、経営側だけでなく、対象部門や育成対象者の視点も踏まえて行うことが、現場との乖離を防ぎ、より実効性の高い運用につながります。

参照:経済産業省「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書(人材版伊藤レポート2.0)」

4.2 組織としての「学習力」の蓄積へ

研修に参加するだけではなく、その成果を組織の共通知(ナレッジ)へと昇華させる工夫が学習力の核となります。実際、ナレッジマネジメント(学びや経験を社内で共有・活用する仕組み)の手法としては以下が実務的に広く取り入れられています:

  • 研修や講座で得た資料・気付き・成功事例を、社内イントラネット(※社員が社内情報を閲覧できる専用のネットワーク)やナレッジベース(※業務ノウハウや事例を蓄積した社内用の情報システム)にレポート形式で掲載し、全社員が閲覧・検索できるようにする
  • プロジェクト報告をケーススタディ化し、後続人材の教材として活用する取り組みは、実務知の継承として有効であると示されています
  • 成果発表会や社内勉強会を定期的に開催し、部署横断で学びや工夫を共有する場が多くの企業で実践されていると報告されています
  • 育成プログラム修了者がファシリテーターやメンターとして後進育成を担う制度は、知識循環の仕組みとして効果的であると業界資料が示唆しています

このように、社員一人ひとりの経験や知識を組織全体で共有・再利用していく取り組みは、部門や世代を超えた学びの連鎖を生み出し、企業の持続的な学習力を支える重要な要素となります。

5. まとめ:サステナビリティ人材育成を企業戦略にどう位置づけるか

サステナビリティ人材の育成は、単なる教育やスキル獲得の枠を超え、企業の持続可能性を支える基盤づくりそのものといえます。気候変動や人権、サーキュラーエコノミーといった複雑で長期的な課題に対応するには、現場で考え、実行し、社内外の関係者と協働できる人材の存在が欠かせません。

即戦力となる人材を採用することは一つの手段ですが、それだけでサステナビリティ経営が推進されるわけではありません。組織の文化や価値観と連動しながら、実務を通じて育てていくプロセスこそが、変化に強い人材を生み出します。

そのためには、OJTとOff-JTを組み合わせた育成設計、社外リソースとの連携、そして学びを蓄積・循環させる組織的な仕組みが求められます。成果の可視化に向けたKPIの設計や、研修後の学びを社内に広げる工夫も含め、育成を“制度”として持続的に機能させることが、企業のレジリエンスと競争力につながります。

今後、サステナビリティ人材の育成は、特定の部署や担当者だけでなく、組織全体で取り組むべき戦略的な課題として、その位置づけを一層強めていくと考えられます。

監修

サスキャリ編集部

サスキャリ編集部

サステナビリティ・ESG領域に特化した転職支援サービス「サスキャリ」を運営する編集チームです。業界動向やキャリアに役立つ情報を、専門的な視点からわかりやすく発信しています。

関連タグ:

# サステナビリティ
プロのアドバイザーがあなたのお悩みや疑問にお答えします
- 転職個別相談会開催中 -
相談内容を選択してください
※転職活動や求人への応募を強制することはありません